でいりいおくじょのBLOG

2014.08.09

読書日記 知性を磨く

今更こんなことを書くのもなんですが

ここ20年くらいで料理の世界が大きく変わりましたねえ。
20数年前、私がまだ駆け出しの料理研究家だった頃

料理研究家というのは

料理のレシピをたくさん知っていたり、素材の知識があったり

目新しい調理器具や調味料の使い方を教えてくれたり

そういういろんな知識のある方のことでした。

けれど今や情報社会

ネット検索すれば、ある程度のことはあっという間に分かってしまう。

知っているというだけでは、価値がない時代になりました。
 

料理研究家のアイデンテイテイーが崩壊しつつある!?
 

次から次へと新しいレシピが求められるけれど

プロとアマチュアの境目のない混沌とした世界で

何が今、求められているのか

プロにしかできないことはなになのか?
 

もしかしたら、こういうことなのかな?

と自分なりに考えていた答えに、

光を与えてくる本に出会いました。
 

『知性を磨く~「スーパージェネリスト」の時代』

               (田坂広志著  光文社新書)
 

「知能」とは、「答えのある問い」に早く正しい答えを見出す能力

「知性」とは、「答えのない問い」に対して、問い続けること
 

「知識」とは「言葉で表せるもの」「書物から学べるもの」

「知恵」とは「言葉で表せないもの」経験からしかつかめないもの
 

「知性」の本質は「知識」ではなく「知恵」である。
 

この本は

「知性」とは何か「知性」を磨くとはどういうことなのか

ということを、具体的な例を挙げながらわかりやすく書かれています。
 

これを料理に当てはめたらどういうことになるか。
 

例えば、肉じゃがを例に挙げると

作り方を知っている。

ジャガイモの切り方、肉の種類と部位、手順や加熱時間も知っている。
 

それが第一段階、これは知識
 

実際に作ってみる、上手に作れる。これが知能
 

ここまでなら、誰だってやれる。

ネットでレシピを検索し、食材のことを知れば調べれば

そんな難しいことでもない。
 

そこで考える。

この暑いときに、肉じゃがのような煮物を作るのはきつい。

台所が暑くならない方法はないものか。
 

あるいは

味の濃い煮物では塩分の取りすぎになるけれど

薄味にしても、おいしく食べられる方法はないだろうか
 

今まで自分がやってきた方法をいろいろ思い出し

最善の方法を考える

これが、知恵。
 

けれど、これだって、ある程度の答えは本やネット検索で手に入れられる。

「知恵」も、自分の頭で考えなくても手に入れようと思えば入れられる。

もっとも、実際それを料理して経験としてインプットしなければ、実際は役には立たないけれど
 

問題はこの先。

「答えのない問い」
 

台所が暑くなっても、わざわざ買い物に行っても

作りたいと思える料理がある。

あるいは、すごく手間のかかる料理でも、その手間が煩わしくなく

逆に楽しいと思える料理がある。
 

家族や友人と餃子を作るとか

本やテレビで見て、無性にカレーを煮てみたくなるとか

わざわざ手でこねてパンを焼いてみたくなるとか

唐揚げをおいしく作る隠し味をテレビで見て、試してみたくなるとか
 

ほんのちょっとしたきっかけで

それまでめんどく感じたていたことが、

楽しく思ったり、やってみたくなったりする
 

そのきっかけは何なのか。

その心の変化の理由は何なのか。
 

答えのない問いは、ほかにもある
 

簡単にできる、の簡単って何なのか?

時間?手間?材料や調味料の種類?

ヘルシーな料理のヘルシーって、いったい何?

カロリー?塩分?脂肪量?

おいしいって、いったい何?

うまみ?食感?香り?味付け?

こんな便利な時代に、わざわざ家庭で料理を作る理由は何?
 

そんな答えのない問いを考える。

ずーっとずーっと考え続けて、答えを探しながら料理を作る。

失敗と成功を繰り返し、一喜一憂
 

それをずーっとずーっと積み重ねて積み重ねて初めて

それが最終的に知性になるのかもしれません。
 

それは言ってみれば

ある時、気づかないうちに自分にふわっと宿る光のようなもの
 

ついつい、手っ取り早く、答えを得ようとするけれど

そうじゃない。
 

レシピや小手先のアイデアにとらわれず

考え続け、経験し続けること。
 

ネット検索ではたどり着けない問いに対する答えを

どれだけ探し続けられるか

どれだけ真摯に向け合えるか
 

それが、たぶん自分の、今進むべき道だと思う。

コメント

メールアドレスは公開されませんのでご安心ください。
また、* が付いている欄は必須項目となりますので、必ずご記入をお願いします。

内容に問題なければ、下記の「送信」ボタンを押してください。

PageTop