でいりいおくじょのBLOG

2025.08.16

読書日記「サイレントシンガー」

小川洋子さんの新刊を読みました。

 

「サイレントシンガー」(小川洋子著  文藝春秋)

 

小川洋子さんの6年ぶりの長編小説という事で

一気読みでした。

 

帯の所に

「人間は、完全を求めちゃいけない生きものなのさ」

と書かれていて

いや、それ、ずーっと小川洋子さんが書き続けているテーマで

小川洋子ファンとしては、そこを書いてほしく、読みたいわけなので

もう、読む前からワクワクです。

 

読み終わった感じは

一言で言うと、透明な美しいものが心の中に流れ込んだようで

今までの小川洋子さんとは少し違う

さらさらと澄み切った感じの文章で

なんか、それが、魂を浄化させてもらっているようで

静かな感動がじわじわくる作品。

余韻がすごい‥。

 

ざっくりしたあらすじを書いておきますね。

 

主人公リリカはおばあちゃんと二人暮らし

 

おばあちゃんは

「アカシアの野辺」で働き、孫娘のリリカを育てている

 

「アカシアの野辺」というのは、

内気な人たちが暮らす地域で

多くを語らず、沈黙の中で暮らしていて

会話は、数少ない指言葉だけ。それで事足りるのです

 

リリカには母親はいません

結婚できない相手との間に子供を身ごもり

リリカを生んだ後

長く伸ばした自分の髪の毛を首に巻き付けて死んだのでした。

 

おばあちゃんがアカシアの野辺で働き

リリカは、アカシア野辺の人たちに見守られながら成長します。

 

そんな静かな野辺の中でおこる

静かな出来事が、この本のストーリです。

 

読み終わった後、

いろんなことを思ったんだけれど

一番考えたのは、沈黙という事でした。

 

沈黙というのは

黙っている事ではなく

言葉にならないコトバ

コトバになっていないけれど

たしかに、そこにある何か

 

コトバは、こちらから心の耳を澄まさなければ

聞き逃してしまう。

 

静かに静かに寄り添っていかなければ

消えてしまう

 

誰かの事を分かろうとする時

自分の事を分かってほしい時

ついつい、多くを語ってしまいがちだけれど

語れば語るほど、零れ落ちてしまうことがある

見落としてしまうことがあります。

 

本当に必要なのは、静かに耳を傾ける事なのに。

 

そしてそれは

頭でわかる事ではなく

感じる事なのに

 

なかなかそれが、難しい。

 

頭で分かろうとすれば

言葉の表面的な意味だけを理解するだけでおわる

沈黙のコトバを聞くには

魂を働かさなければならないのです。

 

しかも、沈黙の言葉を聞こうとする時

頭が働くと、好奇心になってしまう。

沈黙の中に、紛れ込んでいる好奇心

これは、とっても厄介。

沈黙を沈黙として、そのまま受け取ることが大事です。

 

私は、沈黙の声を聞けているだろうか

改めて考えてみました

いや、聞きたいと思っているし

聞こうとしているけれど

実際は、心もとないな。

 

おそらく

知りたい知りたい

分かってほしい、分かってほしい

と思う気持ちが、逆に静寂を壊しているのかもと思う。

 

なんか、今の時代

なんでも明確にわかりやすい事がいい事のように思うけれど

はっきりわかりやすい事って、どうなんだろう。

 

分かりあえないところに

何か、愛のようなものがあるような気もする。

白黒はっきりしちゃったら、なんだかねえ。

 

この本のタイトルの「サイレントシンガー」は

リリカの事なんです。

 

リリカを歌を歌う仕事を頼まれてやっているんだけれど

普通に歌うのではないの。

 

表立って歌うのではないから、サイレントシンガー

水族館のアシカショーのアシカの歌声になったり

プロの歌手のデモテープ用の歌を歌ったり

お葬式のBGMの歌をうたったり

 

夕方になると町役場から流れてくる「家路」の歌を

歌っているのもリリカ

 

夕方になれば、みんな、知らず知らずに聞いているんだけれど

誰が歌っているなんて、誰も気にしておらず

時に、誰かが歌っている事さえ気づいていない

 

でも、心の深いところに、その歌声は届いている

 

まさに沈黙の歌。

 

私も、家庭料理研究家としては

そんな風な存在になりたいなって思いました。

 

私のレシピが、いろんなおうちで作ってもらって

そのうちに、その家の味になって、その家の作り方になって

その時はもう、私のレシピだなんて思う人もおらず

私のことを知っている人もおらず

でも、私がレシピに込めた思いだけが微かにその料理の中に残っているみたいな

 

そうなれば、魂から発する沈黙の料理だな。

 

でも、家庭料理って、たぶん、そうやって、

魂から魂に、引き継がれていくのが理想だから

そうなればいいな。

 

そんなことを、思ったのでした。

 

しみじみと、何かが染みわたって

なんか、沈黙の余韻みたいな心地よさに浸れる一冊です。

 

すごくおすすめ。

是非是非。

 

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