でいりいおくじょのBLOG

2013.03.29

わかりやすいレシピって?

レストランのシェフにとって料理の最終到達点は
お客様の前に料理を供するその瞬間の盛りつけだったり
料理の味付けだったりだと思うのですが
家庭料理研究家にとっては〈少なくとも私にとっては〉
そのレシピを作りたいと思ってもらえるか
そして失敗なく作れるようなレシピであり
わかりやすく書かれているか、ということが最終的な到達点です。
つまり、レストランの料理は
美味しさということだけを突き詰めていけばいいので
手の掛かる工程も、複雑な調味料の配合も
沢山の種類の材量も少ししか使わないような彩り野菜も
全てOKだと思うんです。
 
でも家庭料理の場合は違うと思うんです。
手の掛かる工程はできる限り整理してシンプルにし
味付けも家庭にある限りある調味料で作れるように配慮し
また、材量も極力余らせないように
余った時に困るような材量や彩り野菜は使わないように
これはこれでいろんなことを考えているわけです。
 
一見、レストランの料理は上等で
家庭料理は一段下のように見えますが
実は目指しているものが違うから、そう見えるだけで
上も下もないと、私は思っています。
 
それでも、レシピの分かりやすさや作りやすさだけを比較したら
家庭料理のレシピのほうが上なんじゃないかと
心のなかではちょっと思っているところがあったのですが
果たして自分の書くレシピはどうなんだろうかと、
あらためて考えさせられる本に出会いました。
 
「文士厨房に入る」
(ジュリアン・バーンズ著 みすず書房)
 
著者は英国の小説家。
オックスフォード英語辞典の編集者、文芸評論家、映画評論家などを経験した
いわば言葉のプロです。
彼が、料理書を読みまくり
本を片手に料理を作って、友人や彼女をもてなすのですが
それが、悪戦苦闘の連続なのです。
 
たとえば「チョップとチコリ」という料理を作ろうと思う。
ところが、作り方通りに
フライパンでポークチョップを焼いて、その隙間にチコリを入れようとしたら
どうやっても分量のチコリが入らないわ
無理にいれこんで白ワインをふりかけ
表示通り15分蒸し煮にしたら、チコリはまだ生で
更には、蒸し汁はとろりとしたソースになっているはずなのに
豚肉は薄いスープストックのような汁まみれになっている。
煮詰めるべきなのか、でもレシピには煮詰めろと書いてない。
 
レシピ通りに作って作れない、から始まり
タマネギの中ってどんな大きさなのか
適量、たらりととかってどれくらいなのか
そんなことやりたくないという工程をやらされるレシピへの文句とか
レシピを書く人間としては、
ただ、オロオロするばかり。
 
でも、ここで家庭料理研究家として弁解をさせてもらうとすれば
〈いや、これ、私のレシピじゃないから弁解というのもちょっと違うんだけど〉
 
料理の加熱時間や火加減というのは
あくまで目安であって、それを少しの誤差もなく書くことは不可能なんじゃないかと思う。
無責任な書き方に見えるけれど
使っているフライパンの材質が鉄かテフロンか多重層かでも違ってくるし
肉の厚さや品質(日本産かブランド豚か輸入豚か)や、
あるいは冷蔵庫から出したてなのか、常温においてあったか
その日の気温によっても違ってくるわけで
 
火加減にしても、中火ってどの程度を中火というのか
業務用のガスコンロと家庭用とでは当然違ってくるし
家庭用でもメーカーによって、また人の感覚によっても違う。
まして、IHになってくると、火力の問題だけでなく
火の通り方自体が違ってくるので
もっと難しい問題が起こってくるのです。
〈一般的なレシピは、ガスを使って調理する方法が書かれているので
IH調理器で作ると、違った出来上がりになるものもあります。
IHを使いこなすには、別のコツが必要になるものもあるのです〉
 
でも、レシピというのは
そういうことも含めて、失敗なく作れるようにするためのものではないのか。
そういう、お叱りの声がまた聞こえてきそう・・。
 
そのとおりなんですけど、
だからこそ、私などは一般的なテフロン加工のフライパンで必ず試作しますし
厚手の高価な煮込み鍋なども使わないし
食材も、普通のスーパーで売っているものを使って、おいしく作れるように考えています。
レストランのシェフや日本料理のプロの方が使うような
とびきりいい食材も、上等なだしも使わずに
おいしくできるように工夫しなければ、家庭で同じものは作れないし
それを工夫するのが家庭料理研究家の仕事だと、思っています。
 
失敗することは、決してマイナスではなく
失敗することで覚えていくことも確かにありますが
だからといって、何回か失敗しなければ上手に作れないようなレシピを
紹介しようとは思いません。 
 
だから、出来る限り失敗しないように
失敗しそうなところは、説明を入れつつレシピを書こうと務めていますが
それを全部書こうとすると、
今度は、パッと見ただけで、めちゃめちゃ複雑なレシピのように見え
たぶん作りたいと思わないようになると思う。
 
しかも、写真入りのレシピ本となると
料理のコツを書くスペースにも限りがあるのです。
 
また、調理時間とかも
10~20分というふうに書くと、幅がありすぎてわかりにくと言わるし
真ん中をとって15分と書けば、おそらく、そのとおりには行かないことも起こってくる。
かと言って、調理時間を書かないと、不親切な場合もある。
 
レシピを見て料理を作ってくださっている方も
初めての料理をつくる時はドキドキして不安な気持ちをお持ちだとは思いますが
レシピを書く方も、これで失敗なく作ってもらえるのだろうかと
ドキドキしているのです。
 
レシピをうまく伝える方法、
まだまだ試行錯誤の中にいるというのが、本当のところです。

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