でいりいおくじょのBLOG

2013.01.20

莫言の小説、読んでみました。

「酒国」 
(莫言著 藤井省三訳    岩波書店)
を読みました。
莫言氏といえば、先ごろノーベル文学賞を受賞された中国人作家
それほど文学に対して深い造詣があるわけでもないので
ノーベル賞受賞のニュースを見ても
それほど読みたいとは思ってはいなかったのですが
ふとしたきっかけで手にとることになりました。
というのも
雑誌のブックレビューに
書評家の豊崎由美さんがおすすめの本として取り上げておられたからなのです。
 
あの歯に衣を着せない辛口の書評をバンバンされる豊崎さんが
絶賛しておられるとなると
これは読む価値あるんじゃないかと思ったんですね。
 
しかも酒と美食の話があちこちに登場するみたいだし。
という、軽いノリで読みたいと思ったのでした。
 
ところが、この酒国を読むには
その前に「赤い高粱」という作品を読んでおいたほうがいいという話で
(酒国の中に「赤い高粱」の話が出てくる)
 
まずは「赤い高粱」から読み始めたのですが
正直キョーレツでした。
猥雑で、雑穀で、残虐で、汚くて臭くて
なのに、赤い高粱畑の景色は美しくて悲しくて
時間軸をあちこちに飛び越えながら
登場人物の過去と現在が、すこしずつ明らかになっていく
物語の展開は、息を呑みながらもどんどん読まずにはおれない感じ。
 
未だかつて出会ったことの無い、強烈としか言い用のない物語でした。
 
なので「酒国」は期待と、おそれと、拒絶が入り混じった気持ちで読み始めたのですが
これは、「赤い高粱」ともまた違う
更にキョーレツな物語でした。
 
莫言氏自信が登場人物として物語に登場し
特捜検事ジャックの冒険という小説を小説の中で書いていて
 
その莫言を師と仰ぐ青く小説家志望の李一斗という青年が
自分の書いた奇妙な短編小説を送ってくるというのが、大きなストーリーで
 
それだけでも
莫言が小説の中で書く小説と
李一斗が小説の中で莫言に送ってくる短編小説と
2人の手紙のやり取り(短篇集の感想などが書いてある)
という3重構造になっていて
それだけでも、未だかつて、なかったような複雑な立体構造になっているのです。
 
莫言が小説の中で書いている特捜検事のジャックの話というのは
酒国で嬰児を丸焼きにして食べているという噂があり
それを調査するために酒国にやって来るところから始まるのですが、
 
じつは李一斗は酒博士で酒国の広報担当で
彼の書く短編小説に
嬰児の売買の話とか
嬰児の調理法やら、ツバメの巣の取り方やらが書かれていて
(このそれぞれの短編小説も、めちゃキョーレツです
さらっと書きましたが、嬰児を売買して食べるという話が出てくるのです。
それは実際は嬰児なのか、レンコンを嬰児に似せて作った模造品なのか・・・)
 
その小説が送られて来るごとに
莫言が書くジャックの物語は
不条理に歪んで、どんどんぐちゃぐちゃになっていき
 
読んでいる方も
ジャックと、短篇集と、何が本当で
何が作り話で何が本当のことなのかが段々ごちゃごちゃになってきて
かろうじて手紙のやり取りの中で小説の感想などが書いてある部分で
ほっと一息ついて、現実に戻れるみたいな感じ。
 
ハードボイルドあり、美食の話あり
多重層になった物語の面白さあり
更には、娯楽映画を見るような、ハチャメチャな展開もあり
 
もちろん料理の話も、たくさん出てきて
鳴き声以外、何でも食べるという中国ならではの珍味(ロバの性器の煮込みとか)
なども登場して
お酒とともに、ごちそうもたくさん出てくるのですが
 
なぜか、そういうものが1つも美味しそうでなく
逆に、この豪華な珍味やごちそうを食べさせてくれる酒館の外で
違法営業している屋台のニラわんたんのニラの香りのほうが
断然鼻腔をくすぐり、美味しそうなのです。
 
美食の行き着く先は、結局こういうシンプルな料理に続いていて
最終的には、こういう料理のほうが
胃袋にストンと落ち着くのかもと思ったりしました。
 
おそらく、文学やお酒にもっと深い造詣があれば
もっと違う読み方ができるのでしょうが
とにかく、盛り沢山な小説でした。
 
書評の中で豊崎さんが
自分の読みやすい本ばかり読むんじゃなくて
心がざわざわしたり、違和感を覚えるような小説を我慢して最後まで読むという体験も
時に必要で
そうすることによって、自分の知らなかった世界観が開けるし
本を読むための足腰の力がグッと増す
というふうなことを書いておられて
 
途中、何度もめげそうになりながら
最期まで読んでみると
不思議に、これから、どんなジャンルの本でも読めるんじゃないだろうか
という気になって来ました。
 
読書というのは
気持ちを前向きにしたり幸せにしたり、
感動によって、何科を深く考えたりするためにするものだと思っていましたが
それとは違う、別の読み方もあるのだということを発見した一冊でした。

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