でいりいおくじょのBLOG

2013.05.15

年齢とともに失うものと得るもの

80歳代の後半まで現役で活躍したピアニストのルービンシュタインが
79歳の時に、
その円熟したピアノ演奏の秘訣は何かというのを聞かれた時の逸話です。
彼はこう答えたんだそうです。
 
若い時より指使いは遅くなっているが
テンポにコントラストを付けることで
早いパートが全体の中で早く感じられるようにし
また、演奏曲目を減らし
一つの曲の練習時間を増やすように心がけている。
 
これを読んだ時に
オオーッ、やっぱり生涯現役で活躍する方はすごいなあ
と、心から敬服しました。
 
私自身、もう20年以上も料理に関わってきて
これから先もずーっと死ぬまで現役で料理を作り続けたいと思ってはいますが
 
若いころとは料理のやり方や考え方が、確実に変わってきています。
 
それはたとえば
子どもが小さい時には
好き嫌いしないでバランスよく食べさせる工夫をしたりとか
いかに手早く安く美味しいものを作るかとか
そういうことに重点を置いて料理を作っていた頃から
 
今は、時に一人分の料理をつくるようになったりとか
ガッツリしたものよりあっさりしたものを作るようになってきたとか
魚料理が増えたとか
 
もちろん、そういうこともあるのですが
 
それとは別に
料理に対する考え方みたいなのも確実に変わってきていて
 
新しい味の組み合わせを考えて楽しむことよりも
定番料理を繰り返し作ることで
もっと深くその料理を自分のものにするというか
自分の家の味にしていくことの方に、最近は喜びを感じていますし
 
あれこれ調味料を入れるよりも
できるかぎり調味料を減らして
よりシンプルに、シンプルに、というふうに変化してきています。
 
もともと、あれこれ手をかけすぎる料理は好きではないのですが
その引き算の仕方が
やっぱり若い時よりも、もっと自然に引けるようになったというか。
 
そして
調理法をシンプルにするいっぽうで
シンプルなものばっかりだと単調になってしまうので
酸味や香りや食感などをうまく組み合わせて
満足感や、楽しさを引き出すことは、昔よりもうんと上手になった気がしています。
 
一晩で20~30品ものレシピを書いたり
夜中に揚げ物の試作をするのは
今はもう体力的には無理になりましたし
 
こってり脂っこい料理や
ガッツリ肉食系のレシピも
最近は少々きつい。
 
でも、その一方で
繊細な味は昔よりもよくわかるようになったし
料理の経験を積んだことで
調理過程で、どんな風に味や食材が変化していくか
若い時よりうんと的確に予測できるようになったし
 
料理というものをみるとき、
材量や調味料の組み合わせと調理手順以外の
料理の周りにある、もっとたくさんの見えないファクターが
どんどん見えるようにもなりました。
 
人間ってうまくできているなあと思いますねえ。
歳を重ねていくことで失っていく能力と、歳を重ねて初めてえることが出来る能力と
きちんとバランスがとれている。
 
だから、そのバランスを上手く取りながら暮らしていかないと
 
昔はこうだったのに
以前はこんなだったのにと
失われていくものに執着していては
加齢とともに得た能力を見落とすことになる。
 
お酒とか味噌とかチーズとか
時間を経過しなければ出せないうまみや香りがあるように
人間も、そうありたいと思う今日このごろ。
 

コメント

メールアドレスは公開されませんのでご安心ください。
また、* が付いている欄は必須項目となりますので、必ずご記入をお願いします。

内容に問題なければ、下記の「送信」ボタンを押してください。

PageTop