でいりいおくじょのBLOG

2020.04.22

読書日記「あかね空」

本の整理をしていたら

ずっと前に読んだ本を発見。

調べてみると、2008年に買っているので、

もうかれこれ、12年くらい前に読んだことになります。

 

あの時、ものすごく感動した記憶があったので

もう一度読み直してみることにしました。

 

「あかね空」(山本一力著 文春文庫)

 

第126回直木賞受賞作品。

 

京都の豆腐職人永吉は、お江戸で豆腐屋を始めるのですが

柔らかくて小さい京都の豆腐は

固くて大きな豆腐に馴染んだお江戸の人の口には合わず、

最初、長屋の人たちにも買ってもらえない日々が続くんです。

 

それなら、お江戸の人の口に合う豆腐を作ればよさそうなものだけれど

自分が目指す京都の豆腐で勝負する永吉

やがて、まじめな職人の矜持が、少しずつ理解され、受け入れられるようになっていきます。

 

そうして、おふみと結婚。

3人の子供が生まれ、順風満帆に思えた矢先

 

ある事件をきっかけに

おふみの心に変化が起こり

長男の栄太郎ばかりをかわいがるようになっていきます。

 

それにより、あんなに仲が良かった夫婦の気持ちが

少しずつ、かみ合わなくなっていき

やがて親子関係も、兄弟の関係もぎくしゃくしていくのです。

 

母親の過保護で育った栄太郎は

そのうち、賭博と女郎小屋に入り浸るようになり、店のお金も使い込み…。

 

永吉も、おふさも、三人の子供たちも

本当に一生懸命生きていて

みんなまじめでいい人たちで

誰も、本当は悪くない

 

なのに、少しずつ、心が通じあわなくなり

家族の中に、不信感と、憎しみと、苦手意識が広がっていきます。

そこがとても切ない。

 

しかし!!!

この小説は、これだけで終わらないのです。

 

じつは、この小説

第一部と、第二部とに分かれていて

二部の方は、同じストーリーが、違う人物の視点から語られつつ

物語の続きが展開していくのです。

 

すると、

あんなに腹が立ち、やりきれない気持ちになった出来事に

実は、こういうわけがあって、

本当は、こういう気持ちであんなことをしていたんだ‥

というようなことが、わかってくる・・。

 

最初に、悪い印象を持ってしまうと

それ以降の事が、全部悪いことのように見えてきて

善意が善意に受け取れず、悪意に思えたりする。

 

これって、小説の中だけのことじゃなくて

自分の暮らしの中でも、やっている気がするね。

 

思い込みで、悪く考えて、勝手に腹を立てたり、いやな気持ちになっているようなこと。

 

やっぱり

きちんと、話をすることや、きちんと思いを伝えることは大切ですね。

黙っていても、伝わるはずだと思いこまないで

家族や、兄弟や、親子だからこそ、よけいに

きちんと伝えないと。

そして、自分の気持ちにきちんと向き合わないと。

そんなことを思いました。

 

以前読んだ時も

そんなことを思ったんだけれど

今回2回目を読んでみると

1回目とは、ちょっと違う読後感でした。

 

生きていると、全部がまあるくハッピーエンドってことはなくて

つらいことも、満足できないことも多々あって

幸せな時間と、苦しい時間を比べてみたら

もしかしたら、苦しいことや、つらいことの方が多いかもしれないけれど

だからといって、それが不幸かというと

そうでもないと思ったりしたのでした。

 

永吉にしても、おふみにしても

つらく、しんどいことの多い人生でした。

人生の終わり方も、決して、満足のいくものではなかった。

けれど、幸せなこともたくさんあったし

自分たちの、その生きざまで、子供たちにたくさんのメッセージを残した。

 

人の価値は、自分以外の誰かのために、何をやれたかで決まると思うのですが

永吉も、おふみも、最後までたくさんの人に助けられ、愛されました。

一生懸命仕事をしてきたこと、家族を想ってきたこと、地域の人たちを大事にすること

その事は、確実に子供たちに伝わり

子供たちの人生に生かされていくはず。

 

それって、すごく価値のあることで

すごーく尊い。

 

そう考えると、

今、自分が一生懸命生きることって

そのこと自体に、とっても価値があると思えたりします。

 

幸せで楽しいことより

苦しくて、つらいことの方が多くても

決して不幸じゃない。

 

むしろ、つらかったり苦しい時に、どう生きたかという事が、とっても大事で

その時の生き方は、大事なメッセージとなる。

そしてバトンのように、次々に手渡されていく。

 

そんなことを、あらためて考えた小説でした。

 

 

2020年4月21日あかね雲

コメント

  1. はやかわ あきこ より:

    遅ればせながら、私も読ませていただきました。長編でしたが、本当に一気に読んでしまいました。架空の人物のはずなのに、登場人物が生き生きとしていて、江戸の息遣いが感じられるようで、人間の思いは今も昔も変わらないと思いました。家族の中でも思い違いが生じてしまうというのは、自分が家族を持って、特にこの外出規制の中で、家族だけで過ごす時間が増え、胸に突き刺さる気持ちになりました。家族であるからこそ、黙っていても分かるなんて思わず、もしかしたら生じていた誤解を解かないといけないですよね。

    1. 奥薗壽子 より:

      読んでくださったのですね、うれしいです。
      そうなんですよ。
      この本を読むと、言わなくてもわかるだろうって思わないで
      大事な事は、きちんと言葉で伝えなくっちゃって思いますね。
      特に家族は、黙っていてもわかり敢えて当たり前って、思いがちですもんね。
      特に今、あらためて思ったりしますね。

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