でいりいおくじょのBLOG

2014.04.22

読書日記 「銀の匙」1~10(荒川弘著 少年サンデーコミックス)

著者の荒川弘さんは

名作のほまれ高い「鋼の錬金術師」の著者でもあるし

この「銀の匙」は2012年のマンガ大賞もとっているし

更に、映画化もされて、話題沸騰だし

もう、ここまで言われたら、読まないわけにはいかないやろ、

と思いつつも

どこか、天邪鬼な私がいて

話題になればなるほど、読みたくなくなるというか

心の何処かで、みんなが言うほどたいしたこと無かったらどうしよう

というような気持ちになってきて、

なかなか手に取ることができなかったんです。
 

でも、最近ちょっと漫画づいているもので

第一巻だけでも読んでみよう、と思ってページを開いたんですが

あまりの面白さに、一気読みです。

これ、本当にすごい、めちゃすごいです。

ストーリーはこう(今さら私が書くのもなんですが・・・)

大蝦夷農業高校に入った八軒勇吾。

彼は、札幌の進学校で挫折し、夢も生きる目的もないまま農業高校にきたわけです。

ところが、農業高校に入学してくる生徒というのは

家業が農業だったり、養鶏だったり、牧畜だったり

あるいは獣医や食品加工業を夢見ていたり

それぞれが目的を持って入ってきているんですね。

そんな発見勇吾とそれを取り巻く人間関係を縦軸に

親子関係、将来の夢や希望、食糧問題、環境問題、農業や畜産を取り巻く状況など

さまざまなテーマと絡ませながらストーリは展開していきます。

一つ一つ、笑いながらも最後に真剣にテーマを突きつけられ

けっしてひとくくりのキレイ事に終わらせられない問題に

読者はうーんと考えさせられるわけです。
 

将来に夢を持っていないといけないのか

夢を持つということは同時に現実と戦うということであり

真剣に戦ったところで

ダメなものはダメだったとして

それを一くくりにして、終わらせていいのか。
 

何かにならないといけないと焦る勇吾

でも、本当に大切なのは、どんな人間になりたいかということ。

そして、その答えは、決してひとつでなくてもいい。
 

ちなみに、タイトルである銀の匙は

エゾノー(大蝦夷農業高校の略)の学食に入口に飾られているもの。

銀の匙をもって生まれた子は、一生くうのに困らないという言い伝えから

子供が生まれたら銀の匙を贈る習慣があるのだそう。
 

銀の匙

それは、一生食うのに困らないお守り
 

これを読んでみると、銀の匙って一体何なのかと思う。
 

農家に生まれることは銀の匙なのか。

養鶏場や、農場経営者の跡継ぎは銀の匙を持っているか。

小さな農場がダメでも、大規模農場経営をやっていれば銀の匙か。
 

自然災害、家畜の病気、機材を買うための借金など

間に見えない、リスクは山のように有る。
 

それなら、自然相手じゃないサラリーマン家庭なら銀の匙か

一流企業なら、絶対安心か。

貯金があるということが銀の匙か

いい学校を出ていることが銀の匙か

いい成績をとることが銀の匙か。
 

どれも、銀の匙ではなく

むしろ、この世の中に銀の匙なんてないんだという現実を

繰り返し繰り返し見せつけられる。
 

でも、だからこそ

一生食いっぱぐれのない銀の匙なんて何処にもないのだから

そんなものを手に入れるよりも

闘いながら、自分の生きたいように生きるべきなのだと、背中を押してくれる。
 

正直

「鋼の錬金術師」(全巻読んでないのですが)より、「銀の匙」のほうが完成度は高い

と私は思います。

ギャグのメリハリ、きかせ方

ストーリー展開のスピード感とキレの良さ

そして、テーマの深さと、的確にテーマを凝縮して伝える表現力

全てが、圧巻です。
 

漫画というと、いい年をした大人が読むのはちょっと、と思う方もいるかもしれませんが

少なくとも、この「銀の匙」は、大人も是非読んでほしい。
 

自分の子供が、社会に出ていく時に

何をみて、何を励まし、どう力になってあげればいいのかというヒントが

この中に沢山散りばめられていて

それはまた、自分がどう生きていくべきなのかということにもつながっていきます。
 

漫画を読んだことがない方にも、本当に本当におすすめです。
 

ちなみに荒川弘先生が女性だと言うことを最近知りました。

そう思って、もう一度読みなおしてみると

たしかに、女性ならではの、優しさや細やかさが「鋼~」の時よりも

銀の匙では全面に出ています。
 

荒川先生は農業高校出身、荒川農場の跡継ぎなのに

漫画を書くのが好きで好きで、

漫画を書き続けても、その先に夢や希望があるのかどうか

この漫画に出てくる子たちと同じように苦しみながら

夢を追いかけられた。
 

八軒よりも御影の中に著者の投影を見つけた時

ますます、この漫画が好きになってきた私でした。
 

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