でいりいおくじょのBLOG

2021.02.01

読書日記「心淋し川」

第164回直木賞受賞作。

さっそく読んでみました。

 

「心淋し川」(西條奈加著 集英社)

 

舞台は江戸時代。

千駄木町の一角にある心町(うらまち)を流れる心淋し川(うらさみしかわ)。

その川のどん詰まりに立ち並ぶ古びた長屋に住む人々の話です。

 

そこは、川の流れが止まったように見え

塵芥や、落ち葉や藁くずがたまり

夏ともなると、それが腐り始め、うめくように臭いがたつようなところ。

 

そこに住む人たちの人生もまた、

その川のように、どよんと行き詰っています。

 

博打で稼ぎを使い果たして父親のせいで

貧乏暮らしを余儀なくされているちほ。

良い人を見つけて、一日も早くここから抜け出したいと思って日々暮らしているけれど…。

 

不細工な女性ばかり、4人もの妾を住まわせているのは六兵衛旦那。

4人女は暗黙の序列があり、それぞれに思うところがある‥。

 

毎日物乞いをして暮らしている、ぼけ老人の楡爺

この人はいったい誰なのか・・。

 

たった四文で、おなか一杯美味しいものが食べられる四文屋の稲次

自分の勝手で別れた女のおなかには子供がいたんだけれど

あの女と子供はどうしているかと、過去を引きづっている

 

体の不自由なわがまま息子の世話を、かいがいしくこなす吉

体が不自由なことをいいことに母親にわかまま放題の息子に対し

近所の人たちは金腹を立てるのだが・・。

 

などなど

ここに住む人たちは

誰も彼も、思うような人生を生きられていません。

 

川の流れがよどむように

人生もどよんと濁って、ふつふつと不満がたまっている。

 

なぜか、もう少しというところで

うまくいかないのです。

 

けれど、それが

ものすごく不幸なのかといえば、そういうわけでもないところが

この小説の面白いところ。

 

悲しさや、やりきれなさが

川の淀みにたまったごみの様にたまっていって

もやもやと、心を重くする。

 

でもまあ、そんなこともこんなことも

生きていれば誰にだってあるし

我慢できないほどの不幸でもない。

 

しかも、流れていないように見える川も

実は、やっぱり少しずつ流れている。

 

時間が止まっているように見えても

実際は日々変化しているのです。

 

悲しみも、怒りも、無念さも、後悔も

決して消えることはないと思っている憎しみも

変わらないように見えて

確実に変化しています。

 

心淋し川のどんつきに暮らす人たちのどうしようもない状況は

ゆっくりゆっくりと落ち着くべきところに落ち着いていき

 

ものすごくハッピーではないにせよ

人生、捨てたもんじゃないなあ、って

最後は思えます。

 

そういうわけで

読後感は、けっして悪くありません。

 

それどころか

 

なんか、自分も頑張って生きようって

なんだかわからないけれど、力がわいてくるから不思議です。

 

ものすごく幸せでなくても

別に不幸じゃない。

 

毎日を頑張って生きているだけで、ありがたいこと

生きていれば、それだけで意味がある。

一生懸命、生きよう

そんな風に、思えるお話でした。

 

祝!直木賞受賞。

おすすめです。

 

2021年1月31日本

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